仙台地方裁判所 昭和48年(た)2号
被告人 齋藤幸夫
再審被告人齋藤幸夫は、さきに確定した強盗殺人等被告事件の死刑判決による死刑確定者として、刑法一一条二項により仙台拘置支所に拘置されているところ、弁護人は、右事件の再審が開始され、かつ被告人に対する死刑の執行停止決定がなされている以上、被告人を右条項によつて拘置することは法的に許されないから、被告人の身柄を右の拘置から刑事訴訟法六〇条一項の勾留に切り替えるべきであるとして、被告人に対し勾留状を発付するよう当裁判所に職権発動を促す申立てをしている。
これに対し、当裁判所は、左記のように判断し、併せて再審被告事件における被告人の身柄についての見解を示すこととする。
記
一 確定判決は、再審開始決定がなされても、再審の裁判が確定するまでの間は効力を失わないが、刑事訴訟法四四八条二項は、「再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。」と規定している。右の停止決定は、再審開始裁判所のみならず、再審公判裁判所においてもこれをなしうるものである。ところで、ここに「刑の執行を停止する」とは、その確定判決の刑が死刑である場合には、死刑(絞首)の執行停止に限られ、拘置の執行はその対象にならないのではないかと疑義が存するところである。しかしながら、<1>刑法一一条一項によれば、死刑は絞首してこれを執行し、同条二項によれば、死刑確定者はその執行に至るまでこれを拘置すると規定されているのであり、右拘置は固有の意味の刑ではないが、死刑(絞首)の前置手続として、ひろく死刑の執行手続の一環をなすとみられ、刑事訴訟法四四八条二項にいう「刑」にこれが含まれると解することが十分可能であること、<2>再審において裁判所が前記のように刑の執行停止の裁量権を有するとされたのは、確定判決が再審裁判の確定に至るまでの間効力を失わないことの反面として、その刑の執行をすることが正義に反する場合がありうることにかんがみ、被告人を救済するという理念に立つものであつて、確定判決による死刑(絞首)の執行は停止できるが、拘置の執行停止は再審裁判の確定まで法的に不可能であると解することは、再審において無罪の判決がされた後の場合を考えれば明らかなように、あまりに不当な結果をもたらすこととなり、右執行停止制度の趣旨を全うすることができなくなること、などを考慮すると、前記の「刑の執行を停止する」とは、刑法一一条一項の死刑(絞首)の執行を停止することの外、同条二項の拘置の執行を停止することをも含むものと解するのが相当である。
二 しかし、拘置は、死刑(絞首)の執行に至るまでの付ずい的措置であるとはいえ、死刑確定者を拘置監に拘禁する方法(監獄法一条一項四号)によつて執行され、死刑(絞首)の執行とは行刑上可分なものであるから、裁判所は、再審開始の決定をしたときは、その裁量によつて死刑(絞首)の執行を停止するとともに拘置の執行を停止することができることはもとより、一たん死刑(絞首)の執行のみを停止し、その後の審理の推移等に応じてこれに付加して拘置の執行を停止することもでき、そして、そのいずれの場合においても、拘置の執行を停止するには、その旨の明示の決定が必要であると解される。
三 当裁判所は、昭和五四年一二月六日再審開始の決定をするとともに、「請求人に対する死刑の執行を停止する。」旨決定したが、これは死刑(絞首)の執行のみを停止したもので、拘置の執行を停止したものではないから、その後においても被告人はいぜん刑法一一条二項によつて適法に拘置されているのである。そうすると、被告人を刑事訴訟法六〇条一項によつて勾留しても、右の拘置が当然に効力を失ういわれはないのであるから、弁護人の所論はその前提を欠くことに帰する。
従つて、当裁判所は被告人に対する勾留状発付の職権発動をしない。
四 なお、所論にかんがみ、被告人の身柄釈放の当否について検討するに、本件事案の重大性と被告人の身柄保全の必要性、本件再審公判の審理の状況などを勘案すると、現段階においても、被告人に対する拘置の執行を停止するのは相当ではない。
(裁判官 小島建彦 片山俊雄 加藤謙一)